此辺古の武蔵野にて、堀兼井、迯水、月見野等の名所少からず。 古来歌に詠まれ、詩に賦せられて、如阿に風流閑士の心膓を湧躍せしめたりけん。 今其跡を尋ねんとするに堀兼井は宛として彼の迷宮の如く、迯水は彷彿として是謎なり。 迷宮解けず、謎悟る能はず。 歌人は寧ろ之を心曾して、黙笑すベく、史家は冷灰の手を伸ばして悉く之を昧殺せん。 堀兼井の弁は堀兼村の条に出し、迯水は本節の末項に説明せり。 月見野に至ては特に説述を要せず。