第一説(蒸気説)

旧蹟考に曰く迯水は蒸気也。 春の麗なる日地気蒸れて、遠く之を望めば草の葉末を白く水の流るゝが如くに見ゆるもの也。 そこへ至れば影なし。 三四月迄の事なりとぞ、と。 名所考に曰く、迯水は水にあらず、曠々たる原野に此方より見れば草の末の水の流るゝ如く見やるが、其処に行て見れば水なし。 而して又向ふに水ある如く見ゆるなれば、行程先へ迯行く様なるを以てなりと云ふ、と。 二書必ずしも全く一ならずと雖、仮りに之を蒸気説と名けん。