古歌に詠はれたる名所

堀兼井は古来頗る人目を惹き、武蔵野を語るものは迯水と共に直に堀兼井を連想す。 古歌頗る多し。

千載集 俊成卿

武蔵野の堀兼の井もあるものをうれしく水の近きにけり

俊頼集 俊頼

浅からす思へはこそはほのめかせ 堀兼の井のつゝましき身を

山家集 西行

くみてしる人もあらなん自つから 堀兼の井のそこのこゝろを

拾玉集 慈円

いまはわれ浅き心をわすれみす いつ堀兼の井筒なるらん

名寄 後の久我卿

堀兼ぬる水とのみきく武蔵野の 身はさみたれの波の下くさ

同 冷泉卿

武蔵野や堀兼の井の深くのみ 茂りそまさる四方の夏草

伊勢家集

いかてかく思ふ心は堀兼の 井よりもなほそ深さまされる

六帖 読人不知

武蔵野の堀兼の井の底澄み 思ふ心を何に例へん

廻国雑記 道興准后

おもかけのかたるに残る武蔵野や 堀兼の井に水はなけれと

等種々あり。