以上述べたるが如き郷士に生れ、以上述べたるが如き社会に育ちし、郡内住民の人情は如何に、又其性格は大体に於て如何なる特色を有せりや。 是れ吾人郡内に生れたるものゝ、自ら顧みて甚だ観察に難しとする所也。
然れども其人情の如きは比較的素朴にして、敦厚、異郷の人々来り住するものも大抵、居住に心地善きを言明せり。 然るに之を個々の人民の性格に就て見るに、農村の人民は勤勉にして労苦を意とせず。 蓄財に志すこと厚きも、稍軽率にして自重の念に乏しく、奇を好み、新を追ひ、朝求夕捨の嫌なきにしもあらず。 思想の変動、頗る激しく、一定の準則に従ひ之に依憑せんとするの念慮に欠くる所あり、動もすれば目前の小利に奔りて永遠の計を忘れ、一旦勢に乗ずるも、忽ちにして僅の困難に辟易するの傾向あるが如し。 然も必ずしも農村のみにあらざる也。 市街の人民の如きも、幾分の市街化あり、世故に長けて、流石に朝三暮四の弊少しと雖、要之其根本の素質は農村と相去る遠からず。 衛生思想、政治思想、公共の観念の如き、頗る旧観を改めたるものありと雖、到底未だし。 国家観念は稍鞏固也。 蓋し一言以て之を掩へば、郡内個人性の特色は、単純にして現世的、今日主義なるを以て尽すべし。